生産者に聞く / #03 石黒種麹店様
北陸唯一の“種麹屋”
私は2002年に「ユーセー」を創業しました。「良い食品を消費者にお届けしたい。そのためには志を共にできる生産者との良好な関係が重要だ」との考えのもと、商品を吟味し、生産者と販売店をつなぐ架け橋になりたいと奮闘してまいりました。
一つひとつの商品には、生産者の熱い思いやこだわり、歴史など、珠玉のストーリーが積み重なっています。そんなつくり手の思いを当社は何より大切にしています。
ここでは、私が惚れ込んだ商品と、食への志を共にする生産者の皆様の思いをご紹介しています。
第三回目は富山県で100年以上麹づくりを営み、北陸唯一の“種麹屋”として地域の発酵食文化を支える『石黒種麹店』についてご紹介します。

「石黒種麹店(いしくろたねこうじてん)」石黒種麹店4代目(麹屋8代目):石黒八郎さん(写真左)
インタビュアー:「ユーセー」代表取締役・小倉 正人
― 石黒種麹店との出会いについて
北陸の発酵食・かぶらずしの
味の決め手「麹」に魅せられて
石川県や富山県西部など、旧加賀藩地域の冬の郷土料理「かぶらずし」。
塩漬けの蕪に酢でしめた鰤や鯖の切り身を挟み、米麹で発酵させて作る漬物のような発酵食品(なれずしの一種)で、正月料理や歳暮の贈答品として欠かせない一品です。
30年以上前、前職の仕事で富山県のあるかぶらずし専門店を訪れたときのこと。味の決め手はこの米麹だ、と教えてくださったのが『石黒種麹店』でした。
聞き慣れない「種麹(たねこうじ)」という単語に興味を抱き、即来店。
拝見した麹は、まさに“糀”という文字の語源を思わせるもので、米一粒一粒から見事なほど菌糸が伸び、真っ白な花が咲いたような美しさでした。
麹菌は非常にデリケートなため、わずかな環境の違いが、菌糸や胞子の成長に大きく影響します。
機械生産の麹はパラパラしているのに対し、石黒種麹店の麹は麹菌が複雑に絡み合い、大きめの塊に。公的機関で調べたところ、一般的な麹と比べて石黒種麹店の手づくり麹は酵素量が数倍と非常に多く、発酵パワーが強いことが認められたそうです。

施設内に飾られている麹の写真はまさに美しい花のよう。
― 石黒種麹店について
全国でも数少ない“種麹屋”は
発酵食の原点を守る麹職人
石黒種麹店は明治28年(1895年)に創業。麹屋としての歴史はさらに古く、江戸後期にはこの場所で麹づくりを行っていました。
現在は種麹屋の4代目(麹屋の江戸時代から数えると8代目)である石黒八郎さんと5代目の和郎(かずろう)さんが中心となって店を守っています。

「種麹屋」とは、かぶらずしに使う米麹や味噌、醤油、日本酒など、発酵食品づくりに欠かせない麹菌を培養し、麹菌の素(種麹)を販売するのが仕事です。
石黒種麹店は北陸で唯一、日本国内でも10社ほどしかない種麹屋。自社製品に使う麹の製造はもちろん、味噌屋、漬物屋、菓子屋などの製造業にも種麹や業務用の米麹、甘酒などを供給しています。

また、ご尊父の信念、「素材はその時手に入る最高のものを使う」というのも、石黒さんが大事に守っていることのひとつ。
糀に使う 米は富山県産コシヒカリの一等米を、甘酒に入れる塩は石川県輪島市の低温で結晶化させた塩を、味噌には石臼で丁寧に挽いて皮を取った国産大豆をと、材料にもとことんこだわって造られています。
名だたる老舗・名店がこぞって石黒種麹店を指名する、まさに北陸に根付く発酵食文化の根幹を支える、プロ御用達の一軒なのです。
― こだわりの製法について
温度と湿度を肌で見極め、
麹に“花”を咲かせる職人技
機械による麹造りが一般的な現代では珍しく、石黒種麹店では全工程を手作業で行う「こうじ蓋製法」にこだわっています。
蒸し上げた100℃ の米をゆっくりと自然冷却。絶妙な力加減で種麹と混ぜ合わせたら、麹蓋(こうじぶた)と呼ばれる木製の盆型容器に薄く広げます。高温多湿な麹室(こうじむろ)の棚に一枚ずつ麹蓋を並べたら、職人は微妙な温度・湿度の変化を肌で感じ取り、夜中12時と朝4時に棚の麹蓋を移動させる「差し替え」を行います。
温度や湿度を一定に保ちながら、麹室で約3日間じっくりと菌を成長させるのです。

「冷風機や製麹機を使えば職人は楽になるが、それじゃ、酵素が多くて美しい“糀”はできません」と八郎さん。
曰く、「熱中症に最適」という麹室での作業は非常に過酷です。だから、現代ではほとんどの店が機械で麹を造っています。
常日頃、「先人のやってきたことを頑なに守るのが自分の使命」と豪語してきた八郎さん。
しかし、次代に引き継ぐ際、息子にまで過酷な環境で無理をさせるのはどうかと考え、冷風機のパンフレットを取り寄せたそうです。
八郎さんの予想に反し、息子さんはきっぱりと言いました。
『父さん。これを使うと、例え手造りをしても他の麹屋と一緒になってしまう。お客様が遠方からわざわざ来てくれるのは、うちの麹が「他と違う」からだ。自分はこれまでのやり方を変えるつもりはない』と。
一子相伝。そこには技だけでなく、代々受け継がれてきた種麹職人の信念と誇りが伝承されていることを、私も心の底から頼もしく思っています。

息子さんの覚悟を知ったときは「本当に嬉しかった」と4代目 石黒八郎さん。
― 石黒種麹店の味噌について
無添加だから麹菌が生きている
素材の旨味を堪能できる味噌
石黒種麹店の商品はどれも大変人気ですが、私が一番思い入れのある商品は「麹職人のこだわり味噌」です。
一般的な味噌は酒精(アルコール)を添加することで麹菌の発酵を抑制し、容器の膨張を防ぐのですが、石黒種麹店の味噌は、原材料が一等米コシヒカリの米麹、国産大豆(契約栽培)、塩のみ。麹菌が作った体に良いものが失われるため、余分なものは一切入れません。
麹がたっぷりと入っているこの味噌は、まろやかで角がなく、奥行きのある味わい。素材の美味しさを邪魔せず、調和の取れた料理へと昇華させる、まさに唯一無二の味噌なのです。

「ご当地味噌」という呼び名があるくらい、味噌は地域によって嗜好性が異なるのが一般的。にも関わらず、石黒種麹店の味噌はお取り扱いいただいている幅広いエリアで、入荷後に即完売になるほどの人気ぶり。「この味噌じゃなきゃ駄目なの」と、首を長くして入荷を待ってくれるお客様がたくさんいらっしゃいます。
「麹職人のこだわり味噌」は有名な料理家や、高級料亭にも愛用されており、店頭に並ぶまで半年待ちになるほど人気のある商品です。
しかし、石黒種麹店ではこれからも機械化による大量生産は行う予定はありません。
「しっかり造れる数には限界がある。目の行き届く範囲で、常に最高の品質の商品を世の中に送り出したい」との強い思いがあるからです。
世の中の「味噌」と呼ばれる商品と、この味噌は全くの別物。
私はそう思っています。
手間を惜しまず、誠実に麹と向き合う石黒種麹店の姿勢は、まさに日本の食文化を支える要。
その美味しさを、こだわりを、職人さんの思いを、価値を共有いただける全国の小売店さんに熱く伝え、未来につなげることこそが当社の使命だと思っています。
本物の職人の皆様に、最高の商品づくりに専念いただき、日本の素晴らしい食文化を守っていただきたい。ユーセーはそのためのお役に立てるように取組んでまいります。
※「麹職人のこだわり味噌」は品薄のため新規のご案内は休止中となっております。

「ユーセー」代表取締役・小倉 正人



